カテゴリー別アーカイブ: 第1講 小論文とは何か?

1-1:小論文と作文の違いはいったいなんだろう?

「作文」も「論文」も自己表現の一種。「私」を直接的に書くのか、間接的に書くのかが一番の違い。

作文と論文はどのように違うのか? この問題は、いままでいろいろな本で、いろいろに言われてきました。しかし、大事なことを忘れてはいけません。それは、作文も論文も自己表現の一種であるということです。

「自己表現」などといわれると、何やら頭の中が「???」となってしまいそうですが、つまり、作文も論文も自分の経験や考えを他人に伝えるために書くのだということです。その意味で作文も論文も「私」のことを書くものだと言うことができます。

ズバリ 作文と小論文の違いはココ!

でも、あなたもお気づきのように「作文」と「論文」には明らかな違いがあります。その違いはどこから来るのでしょうか。それは、同じ「自分」に関する表現でも、その表現方法が違うことからくるのです。

ここではひとまず、「作文」と「論文」を、以下のように定義しています。

  • 作文…「自分」のことを直接書く文章
  • 論文…「自分」のことを直接書かない文章

以下、くわしく説明します。

作文…「自分」のことを直接書く文章

作文とは、簡単にいってしまえば、自分の経験を中心に、感じたことや考えたことを書く文章です。もう少しきちんと定義すると以下のようになります。

作文のくわしい定義:
「自分自身の《経験》に基づき、その《経験》に対する《分析》や《感想》を述べる文章」

ある経験を通して考えたこと、感じたことを述べることによって、自分を知ってもらうための文章。つまり、どのような形にせよ、「作文」はあなたという人がどんな人なのかを語る文章なのです。

それでは以下に、試験という観点から見た「作文」の特徴を挙げましょう。

  • 自分の経験を中心に構成される
  • 人柄や感性を評価するのに適している。
  • 論理的整合性より話の内容の方が重視される。
  • ある程度の文学的表現も許される。
  • ある程度の主観的判断も許される

論文…「自分」のことを直接書かない文章

論文とは、簡単にいってしまえば、ある意見に対して自分の判断を下し、その判断がなぜ正しいのかを根拠を挙げて述べる文章です。もう少しきちんと定義すると以下のようになります。

論文のくわしい定義:
「与えられている事実・意見の《引用》に基づき、その事実・意見に対する自分の《判断》の正当性を《根拠》を挙げて主張する文章」

「論文」は客観的である必要があります。そのためには「自分」が前面に出る主観的な文章(~が好き、~が嫌い、~を信じる等)は書くべきではありません。
また論文は一定の手続きに従って書く必要があります(それが《引用》《判断》《根拠》です。後ほど説明します)。この手続き自体には個性は反映されません。しかし、どのような内容の《引用》《判断》《根拠》を行うかには、その人の個性が反映されます。つまり、同じ手続きにどのような内容を盛り込むかによって、間接的に「自分」を表現するのが「論文」といえるのです。

それでは以下に、試験という観点から見た「論文」の特徴を挙げましょう。

  • 社会的事象を中心に構成される
  • 論理的思考力や知識量などを評価するのに適している
  • 話の内容よりも論理的思考力・表現力が重視される
  • 文学的表現は嫌われる
  • 客観的判断が最優先、根拠を持たない主観的判断は許されない。

さあ、これで「作文」と「論文」の違いがわかりましたね。それでは、「小論文」とはどんな文章なのでしょうか?


1-2:「小論文」において一番大切なことはこれ!

自分を受からせてくれ!というメッセージを持たない小論文は小論文ではない。最大限に自分をアピールせよ。

字の通り解釈すれば、「小論文」とは、「小さな論文」のことです。しかし、入学試験や就職試験では、つねに「小さな論文」を書けばいいというわけではありません。

 「小論文」とはあくまでも試験科目の名前です。

確かに「小論文」の試験で、文字通り「小さな論文」を書かされることもあります。しかし、実際は「小論文」の名の下に「作文」を書かされたり、「要約」を作らされたり、はては大学入試の場合は、「国語」や「英語」の問題を解かされたりすることも多いのです。
また、試験科目としての「作文」についても同じことがいえます。特に就職試験の場合、「作文」の名の下に「論文」を書かされたり、時には「ショートショート」を書かされたりもするのです。

結局、「小論文」あるいは「作文」という試験科目の名の下に、どんな文章を書いたらよいのかは、過去問を分析し、実際の設問に接してみなければわかりません。
ですから、試験科目の名前としての「小論文」「作文」という言葉には、こだわらないようにしましょう。

とりあえずここでは、試験のために書く作文、論文を一括して「小論文」として扱うことにします。また、本来の意味での作文を書くべき試験問題は「作文型小論文」、本来の意味での論文を書くべき試験問題は「論文型小論文」と呼ぶことにします。

ズバリ! 小論文で一番伝えるべきことは

さて、「小論文」の定義はこのくらいにして、それよりもっと大事なことをお話ししましょう。
それは「小論文」は何のために書くのか? いい換えれば受験生は「小論文」で何を試験官に伝えればよいのか?ということです。

あなたはなぜ、「小論文」を書くのでしょう? 当然、試験に合格するためですね。では、合格するためには「小論文」で相手に何を伝えればよいのでしょう? 答えはいたってシンプルです。

私は志望する会社/学校にとって有益な人材であり、採用される/合格するべき人物である。

この一点を試験官に伝えられれば良いのです。また逆にいえば、このメッセージを持たない「小論文」は書くだけ無駄というものです。

入学試験、就職試験ともに、志望先へのプレゼンテーション(自分の売り込み)であることに変わりはありません。「自分はこの会社にとって、こんなに利益をもたらす存在ですよ」「私は将来、この学校の評判を上げる可能性のある優秀な学生ですよ」「小論文」の答案であなたが伝えるべきメッセージはこれだけなのです。

では、試験官に「有益な人材」と思わせ、「採用」したい「合格」させたいと思わせる「小論文」の答案とはどのような答案なのでしょうか。いい換えれば、高い評価が得られる“良い”「小論文」の答案とはどのような答案なのでしょうか。

それではここで、あなたに質問です。試験官に高く評価される“良い”「小論文」の答案とはどのような答案でしょうか?


1-3:高く評価される“良い”「小論文」の答案とは?

いつでも、どこでも、だれにでも通用する“良い”答案などない。試験官の要求にきちんと応えた答案が“良い”答案!

いろいろな本が“良い”「小論文」の答案を定義しています。いくつか拾ってみましょう。

  • あなたという人柄がよく伝わる答案
  • 自分の意見を論理的に筋道を立てて明確に表現した答案
  • 読みやすくて人を引きつける答案
  • なるべく常識から離れた突飛な内容の答案

たしかにこれらの“良い”「小論文」の答案の定義は、ある特定の状況下では有効です。
しかし、これらの定義にかなった“良い”答案が、いつでも“良い”答案であるわけではありません。なぜなら試験問題によって、あるいは試験官によって、“良い”答案は大きく違うからです。
例えば、試験官が、受験生の論理的思考力を見るために「論文」を書くことを要求している時にに、いくら「作文」的に感動できる“いい話”を書いても“良い”答案にはなりません。
また、反対に、受験生の人柄を見るために「作文」を要求しているのに、“理路整然とした”「論文」を書いても“良い”答案にはなりません。
じつは、あなたがめざすべき“良い”答案はただ一つです。それは、

試験官が読んで面白いと感じ、この人をぜひ採用したい、合格させたい、と思わせる答案

です。それを忘れないでください。