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「自分」について直接語る「作文型小論文」。評価ポイントは、志望先への意欲と人柄。自分のことを熱く、かつ冷静に語れ!
「小論文」の二大柱の一方である「作文型小論文」は、受験生の入学への意欲や人柄を見るために使われます。医学部の「配点なし」の小論文入試や、教育学部、看護学部など、人柄が学部適性として重要視される学部の入試などがその典型例です。また、企業の入社試験の課題も約半数がこの型の論文を書かせるようです。
どちらにせよ、「作文型小論文」では、志望者である「あなた自身」を語る必要があります。このタイプの小論文では、自分がいったいどういう人間なのかを、存分に試験官にアピールしましょう。
これが典型的な作文型小論文だ!
以下に、典型的な作文型小論文を挙げます。課題は数多くの推薦入試や志望理由書に使われる「この学校・学部を志望した理由を書け」です。今回は教育学部向けの内容で、制限字数は600字です。(なお、「学校・学部」のところを「会社・業界」と置きかえれば、そのまま就職試験やエントリーシートの課題にもなります。就職試験の人は自分だったらどう書くかを考えながら読んでください)
「この学校・学部を志望した理由を書け」
教育学部・教育心理学科向け
「カウンセリングの技法を身につけた、生徒の話を聞ける教師になりたい」これが私がこの学部を志望した理由である。
中学2年の時、私は軽い不登校になった。学校には何とか行けるのだが、教室に行けない。このとき私を受け入れてくれたのは学校の保健の先生だった。その先生は私の「教室へ行きたくない」という気持ちを認めてくれ、ひたすら私の話を聞いてくれたのである。高校2年で進路を決めるとき、ふと思い出したのがその先生のことであった。そして、私は生徒の話をよく聞くことのできる教師になろうと思ったのである。
現在、学校には、悩みを誰にもうち明けられない生徒が数多く存在する。表面的なつきあいだけで親友と呼べる人もなく、いじめなど深刻な問題を抱えた生徒もいる。教師との関係も冷たい。「教師は生徒のことを一番理解していない人間だ」と私の周りの人たちも言っていた。しかし、だからこそ、私は、生徒の話を聞ける教師になりたいのだ。
将来の理想の教師像に近づくために、私は大学でカウンセリングの技法を学びたい。同時に不登校児の支援ボランティアにも参加したい。そして、中学の時にお世話になった、あの保健の先生に少しでも近づきたいと思う。
以上が私がこの学部を志望する理由である。
「過去の自分」と「未来の自分」、書くべきことはこの二つだけ。
「いままであなたは何をしてきたのか?」「これからあなたは何がしたいのか?」 問われているのはこの二つだけ!
典型的な「作文型小論文」はいかがだったでしょうか?
私ははじめに、「作文」とは、
「自分」のことを直接書く文章
と定義しました。前ページの典型的な作文型小論文も、たしかに「私」のことを書いています。
しかし、作文型小論文の試験において、「自分」を語るとは、「自分」のなにを語ることなのでしょうか? 家族構成? 血液型? 趣味? いえいえ違います。
じつは「作文型小論文」において、あなたが書くべきことは、たった二つのことなのです。それは、
- 過去の自分(=いままで何をしてきたか)
- 未来の自分(=これから何をしたいか)
です。
つまり、「作文型小論文」とは、「過去の自分(=いままで何をしてきたか)」をふまえ、これからの「未来の自分(=これから何をしたいか)」を述べる論文なのです。
「えっ、これだけ?」とあなたは思うかも知れません。しかし、これだけなのです。入学試験にせよ、就職試験にせよ、「作文型小論文」において「現在の私」を語る唯一の方法は、自分の過去の経験と将来の展望を語り、なぜ、その過去から未来へと通じる直線上で、その学校や会社に属すること選んだか、を述べることなのです。
しかし、だからといって自分の過去の経験と未来への抱負をすべて書くわけには行きません。
では、「過去の自分」と「未来の自分」の何を書けばよいのでしょう。
「過去の自分」として書くべきことは、以下の三つの条件を兼ね備えた「過去の経験」です。
- いままでしてきたことの中で、
- なるべく新しい、
- 自分の内面を変えた出来事。
そして「未来の自分」として書くべきことは、以下の三つの条件を兼ね備えた「未来の計画」です。
- 「過去の自分」をふまえた、
- 自分の将来の「夢」に通ずる、
- 志望先での具体的な計画。
ここで問題となるのは、「作文型小論文」では、「過去の自分と」と「未来の自分」が、連続性を持っていなければならないということです。
例えば、「寝たきりの祖母をずっと看病したことがある」という「過去の自分」から、「将来は、ヘルパーになりたい」、あるいは「福祉行政に携わりたい」という「未来の自分」を導くのならば納得がいきます。しかし、同じ「過去の自分」から「図書館の司書になりたい」という「未来の自分」を導き出すのは、あまりにも連続性がありません。「過去の自分」と「未来の自分」は読者が納得がいくように連続性を持たせるようにしましょう。(意外な「過去の自分」と「未来の自分」の結びつきで試験官の目を引く、という方法もありますが、最初はオーソドックスな結びつきで書くほうがいいでしょう)
“私の成長物語”としての「作文型小論文」
また、試験のための小論文という性格上、そこで語られる「私」は、「いままで良い方向に成長してきて、そしてこれからも良い方向に成長し続ける私」でなければなりません。
「いままでさえない人生をおくってきて、これからもろくなことは起きないであろう私」を合格させよう、採用しようとする試験官は、一人もいません。事実、いままでの人生でいいことが一つもなく、これからもろくなことは起きないであろう思っていたとしても、そのようなことは決して書いてはいけません。(バカ正直は正直なのではなく、バカなのです)
いくら連続性があり、事実であったとしても、自分の印象を悪くする「過去の自分」と「未来の自分」を書いてはいけません。「作文型小論文」では、過去の成長記録や、未来における成長予定など、“のびゆく私の成長物語”を書くようにしましょう。
抽象的な課題にどう対処するか?
さらに、作文型小論文には「壁」「眼」などといった一見何を書いたらいいのかわからない抽象的な課題が出題されることがあります。
この場合は、課題の前に「私にとっての」を入れて考えてください。つまり、「私にとっての『壁』」「私にとっての『眼』」と考えるのです。
そうすれば「私にとっては父が『壁』だった」とか「私の『眼』はあの本を読んだとき開かれたのだなあ」とか、いろいろと「過去の自分」で書くべき経験が出てくるでしょう。あとは、これらの「過去の自分」を元に、「未来の自分」と結びつけて論文にしていくのです。こうすれば、「何を書いたらいいのかわからない」ということもなくなります。
人生観を問う問題にはこう対処する
人生観を問う問題も同じように考えましょう。「私の人生観」(日本石油)のように直接聞いてくる場合も、「私を語る」(ミノルタカメラ)のように間接的に聞いてくる場合も、いまの私のあり方を決定づけた「過去の自分」の経験を語り、それをもとに今後はどう生きていきたいかという「未来の自分」を語りましょう。
「私の職業観」(日本オリベッティ、その他)「私の生活信条」(電源開発)も原則は同じです。なぜ、そういう職業観を持ったのか、なぜその生活信条を持ったのかを、「過去の自分」と「未来の自分」をむすぶ直線上で語ってください。
自分を知るために、自分自身に問いかけよう
さて、ここまで読んできて、あなたもお気づきでしょうが、どのようなパターンの「作文型小論文」を書くにせよ、「過去の自分」と「未来の自分」の両方を語る必要があります。あなたは語るべき「過去の自分」と明確な「未来の自分」像を持っていますか?
「作文型小論文」における最大の難関は、この「過去の自分」と「未来の自分」をつかむこと(=「自己分析」)なのです。
「自己分析」とは、言葉で自分を説明できるようにすることです。「いままで自分は何をしてきたのか?」「これから自分は何がしたいのか?」このような問いに言葉で答えようとすることで「自己分析」は進んでいきます。
そして当然のことながら、これらの問いに、全員共通の正解などはありません。すべての答えはあなたの内側にあるのです。また、その答えは一人一人違ったものであるはずです。
「自己分析」をすることで、自分自身を言葉で語りましょう。そして、語るべき「過去の自分」と「未来の自分」をみつけるのです。
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