2-7:「論文型小論文」で「何を」書いたらよいか?その2(「引用」「判断」「根拠」)


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「引用」「判断」「根拠」で自分の論を組み立てよう! 言質を取って(引用)、自分の意見をガツンとかまし(判断)、動かぬ証拠を挙げれば(根拠)、最強の「論文」のできあがり!

さて、典型的な「論文型小論文」はいかがだったでしょうか?

私は序章において、「論文」を、

「与えられている事実・意見の《引用》に基づき、その事実・意見に対する自分の《判断》の正当性を《根拠》を挙げて主張する文章」

と定義しました。

つまり、論文とは、引用されたある意見に対して自分の判断を下し、その判断がなぜ正しいのかを根拠を挙げて述べる文章なのです。そしてこれに必要に応じて「問題提起」と「まとめor提案」を付け加えると「小論文」の答案になります。

しかし、難しく考える必要はありません。じつはこの定義は、

「絶対に口げんかで負けない方法」

から私が編み出したものです。

自慢ではありませんが、私はいままでほとんど口げんかで負けたことがありません(数少ない例外がいまの奥さんです)。そしてある日、私は口げんかで勝つためには、ある一定の手続きをふめばよいことに気がついたのです。

そして、じつは「絶対に口げんかで負けない方法」は、そのまま「説得力のある論文の書き方」だったのです。

それでは以下に、「絶対に口げんかで負けない方法」を説明しながら、「引用」「判断」「根拠」による「説得力のある論文の書き方」を説明しましょう。

.「引用」…まずこれからものをいおうとする相手から言質(げんち)を取ろう

口げんかでは、まず最初に相手から「言質(げんち)」を取らなければなりません。つまり、「いまおまえ、○○っていったよな?」と相手がたしかに「○○」といったことを認めさせておくのです。そうしておかないと、すぐに相手は「○○なんていってない」といってきます。そうさせないように、まず冷静に相手に自分の発言を確認させるのです。

これと同じように「論文型小論文」を書く際は、まず、「与えられている事実・意見」を「引用」します。

さきほどの「典型的な論文型小論文」の例でいえば、第1段落が「引用」になります。
「与えられている事実・意見」とは、「資料読みとり型」の試験の場合は、「資料文で筆者の行った主張」ということになります。また、「テーマ型」の場合は、「社会的文脈」(みんなが知っている事実や意見)となります。

これら「筆者の主張」や「社会的文脈」を引用することで、これから、この部分に対してものをいうのだ、と読者と自分自身にいい聞かせることができます。そしてこの引用部分を元に「自分の意見」を作るのです。

そもそも、

「自分の意見」というものは「与えられている事実・意見」との関係の上に成り立っている

ものなのです。

たとえば、あなたも日頃、会議などで「自分の意見」を求められたとき、次のような思考や発言をしていないでしょうか。「Aさんの意見には全く賛成できない」「Aさんの意見のこの部分は賛成できるがこの部分は賛成できない」「Aさんの意見とはべつにこういう考え方もあるのではないだろうか」「Aさんの意見に賛成だ。Aさんを応援するために、こういう例も挙げられるのではないか」などです。

これらの思考や発言は、まさにあなた自身の「自分の意見」です。しかしもうおわかりのように、これら「自分の意見」は、「Aさんの意見」という、すでに「与えられている意見」を基準に形成されているのです。

また、自分の意見を主張する前に、自分の意見がどのような事実をもとに生み出されたのかを説明することもよくあることです。

ですから、「与えられている意見・事実」のどの部分に対して自分は意見をいうのかをはっきりさせ、自分の意見との違いを際だたせるためにも、「引用」をきちんと行いましょう。

「問題提起」…相手に自分の意見を疑わせよう

言質を取って、自分の発言を認めさせたら、次はその発言にゆさぶりをかけます。「おまえ本当に○○だと思ってんのか?」「○○っていったい何だ?」問いの形はどのようなものでもかまいません。とにかく、相手の意見に疑問をぶつけ、自分の発言を疑わせるのです。

「論文型小論文」を書く際も同じです。

自分の意見をいい出す前に「問題提起」をすることで、読者に引用部分を疑ってもらいましょう。「はたしてこの筆者の主張は妥当なものであろうか」や「果たしてこのような方法で事態の改善は図れるか」といった具合にです。

さきほどの「典型的な論文型小論文」の例でいえば、第2段落が「問題提起」になります。

このときのポイントは、この後に来る自分の「判断(=自分の意見)」ときちんと対応するように問題提起をしておくことです。その意味で、「問題提起」は「判断」と同時か、あるいは後で考えても良いでしょう。

しかし、「問題提起」はかならずしなければいけないものではありません。

なぜなら最近は、すでに内部に「問題提起」が含まれている設問が多いからです。そういう問題の場合は、わざわざ独自の「問題提起」をする必要はありません。あたえられた問題提起をそのまま書いて、その問題に対して「判断」を下せばよいのです(設問内部に問題提起が含まれている例は《《《リンク》》》「型どおりに書いてみよう(4)」を参照してください)。

しかし、その一方で、「問題提起」を含まない旧来型の設問もあります。テーマだけが与えられているものや、「以下の資料文を読んで思うところを書け」や「○○について自由に述べなさい」といった設問です。

このように、設問に「問題提起」がされていない場合にのみ、「判断」のまえに「問題提起」を自分で行う必要があるのです。

この場合は、「問題提起」で、これから論述することの範囲を限定するようにします。つまり、「問題提起」をすることで、自分が何についてこれから判断を下すのかを宣言するのです。

つまり、「問題提起」とは、

  • 設問に「問題提起」が含まれていない場合に、
  • 自分が何を論ずるかを限定するために、
  • 「判断」と一緒に行うもの

なのです。

「判断」…自分が最もいいたいことをガツンとかまそう

相手の発言にゆさぶりをかけたら、いよいよこちらの意見を相手にぶつけます。ハードな口げんかのときは、相手の発言を全否定するような意見をガツンとかましましょう。「説得」程度のソフトな口げんかの場合は、相手の立場を認めつつ、おだやかに自分の意見を主張しましょう。

「論文型小論文」でもまったく同じです。

このぶつけるべき「自分の意見」が「引用」部分を元に作られた「判断」なのです。

さきほどの「典型的な論文型小論文」の例でいえば、第3段落が「判断」になります。

そして、「判断」においてあなたがするべきことは、思考を柔軟にして様々な角度から「与えられた意見」を分析し、それをもとにして、しかしそれとは距離を置いた「自分の意見」を構築することなのです。

たとえば、以下のような「与えられた意見」に対して、あなたはどのように「判断」を下しますか?

「与えられた意見」
インターネット上のわいせつなポルノサイトは、国によってもっと規制されるべきである。

この意見に対して下せる「判断」は非常にたくさんあります。たとえば、少し考えただけでも、以下のようなパターンが考えられます。

「自分の意見」のパターン

パターン1:「全肯定」→「補足」
(1)「その通りである。さらに国家の安定を脅かすような反体制的なサイトも規制するべきである」

パターン2:「全否定」→「代案提示」
(2)「全面的に反対である。たとえ、どんなにわいせつなサイトであろうとも、国によって規制されるべきではない。インターネット使用者のモラルに任せるべきだ」

パターン3:「部分否定」→「修正案提示」
(3)「たしかに、あまりにもひどいサイトは取り締まられるべきであろう。しかし、国によって一方的に取り締まられるべきではない。できれば、インターネットに参加する人々によって構成される特別機関により、取り締まられるべきサイトが決定され、その勧告にしたがって国が取りしまる方法が理想である」

パターン4:「前提否定」→「新前提提示」
(4)このようなことを問題とすること自体がおかしいのである。インターネット上のサイトを「国が取り締まる」ことなど、技術的にいって不可能なのである。

どうでしょう? あなたは他にどのような「判断」を思いつきましたか?

さて、どのような「判断」にせよ、「判断」を下すときのポイントは、

「与えられた事実・意見」をなぞるだけでない、自分独自の考えを示す

ということです。

上記のパターンには、すべて、前提となった「与えられた意見」にはない、独自の「自分の意見」が付け加わっています。「全肯定」の意見でさえ、そのあとに、新たな論点を「補足」しています。

論文というのはいままでになかった自分の意見を他人に認めさせるために書く文章です。

ですからそこには、いままでにない何らかの新しい情報が含まれていなければなりません。つまり、論文型小論文における「判断」の基本は、与えられた意見にとりあえず「NO」をいおうとすること、そしてその過程で新しい「自分の意見」を発見しようとすることなのです。

「根拠」…「動かぬ証拠」を突きつけて、相手に自分の意見を認めさせよう

さて自分の意見をガツンとかましたら、間髪を入れずに「動かぬ証拠」を相手に突きつけましょう。「なぜ相手が間違っているのか」「なぜ自分の意見が正しいのか」の2点に絞って、証拠を挙げていきます。このとき「動かぬ」証拠を挙げることがポイントです。「動かぬ」証拠とは「客観的な事実」です。誰もが認める客観的事実を突きつけられたら、相手もこちらの意見を認めざるを得なくなります。

同じことが「論文型小論文」にもいえるのです。

「論文型小論文」も、自分の「判断」を下したら、次にその「根拠」を挙げなければなりません。なぜなら「根拠」がなければ、その「判断」が正しいか、正しくないかを確認できないからです。

さきほどの「典型的な論文型小論文」の例でいえば、第4・5段落が「根拠」になります。

では、読者が納得するような「根拠」はどのようにしたら挙げられるでしょうか。

「自分の意見」の正当性を証明する「根拠」を挙げる方法には、大きく分けて以下の二つの方法があります。

(1)「反例」を挙げる。
(「相手の意見」の非正当性を指摘する)
(2)「証例」を挙げる。
(「自分の意見」の正当性を指摘する)

以下、説明します。

(1)「反例」を挙げる。
(「相手の意見」の非正当性を指摘する)
「自分の意見」の正当性を証明するための方法として、与えられた「他者の意見」の非正当性を指摘するという方法があります。つまり、「他者の意見」のもつ問題点を指摘することによって、結果として「自分の意見」の方が正しいのだ、と主張する方法です。

たとえば、いま回挙げた「典型的な論文型小論文」の例でいえば、文部科学省の

「学習内容の精選、完全週休二日制などの導入で、「ゆとりの教育」を進める」

という方針に対して

「現在の教育におけるの画一主義がなくならない限り、本質的な改善にはつながらない」

と問題点を指摘しました。そうすることで「学習内容の精選と週休二日制だけでは本質的なゆとりを教育にもたらすことはできない」という「判断」に説得力を持たせています。

このように「相手の意見」の非正当性を指摘する「根拠」のことを「反例」といいます。「反例」を挙げることによって、「相手の意見」は否定され、「自分の意見」の正当性が間接的に証明されます。

(2)「証例」を挙げる。
(「自分の意見」の正当性を指摘する)
「自分の意見」の正当性を証明するためのもう一つの方法は、「自分の意見」の正当性を指摘するという方法です。つまり、「自分の意見」を支える有力な根拠を挙げて、結果として「相手の意見」よりも「自分の意見」の方が正しいのだ、と主張する方法です。先ほどのポルノサイトの例でいえば、

「このようなことを問題とすること自体がおかしいのである。インターネット上のサイトを国が取り締まる」ことなど、技術的にいって不可能なのである」

という「判断」に、

「なぜなら、オーストラリア在住の韓国人が、アメリカのサーバーを使って、日本人向けに日本語のサイトを立ち上げることもできるからだ」

というような根拠を挙げる方法です。

このように「自分の意見」の正当性を指摘する「根拠」のことを「証例」といいます。「証例」を挙げることによって、直接的に「自分の意見」の正当性が証明されるのです。

以上の2つの方法((1)「反例」を挙げる(2)「証例」を挙げる)で、「自分の意見」の正当性は証明されます。

そして、当然のことながら、「反例」と「証例」はどちらか一方しか使えないわけではありません。一度にその両方を使うこともできます。

また、「根拠」として一番説得力があるのは「具体的な社会的事実」です。

「社会的事実」は読者によっても検証可能な事実です。つまり、本当にこれらの事実があったのかどうか、またこれらの事実は「自分の意見」を支える根拠となりうるのか、を読者自身が実際の事実を調べることによって検証することができます。そして、これらの事実が読者に受け入れられたとき、「自分の意見」は「相手の意見」より正当性を持つ、と読者に評価されるのです。

また、自分の経験も十分「社会的事実」になります。「典型的な論文型小論文」の例としてあげた答案においては、自分が中学校時代に軽い不登校になった事実が、学校教育における画一主義の弊害を指摘する社会的事実になっています。

つまり、「根拠」において書くべきなのは、

  • 「相手の意見」の問題点を明らかにし、
  • 「自分の意見」の正当性を保証する、
  • 具体的な「社会的事実」

なのです。

「まとめor提案」…「だめ押し」をするか、「助け船」を出すか?それが問題だ。

さて、口げんかもそろそろ決着が付いてきました。あとは、今後の人間関係を考えて、相手を完膚無きまでにたたきのめすか、新たな改善策を一緒に考えて関係の修復をはかるか考えましょう。

小論文も同じです。「引用」「判断」「根拠」で自分の主張を展開したら、最後にもう一度自分の判断を繰り返し、自分の主張を再確認するか、相手の意見の問題を指摘した後の代替案を提案するかを決めましょう。つまり、「引用」「判断」「根拠」の三要素に加え、最後に「まとめor提案」を付け加えるのです。

これは、「小論文」として形式を整えるためのもので、「論文」本来の性格からいえば不必要なものです。しかし、「まとめ」を最後に書くことにより、小論文が形式的に整い、小論文全体に統一感が生まれます。また、自分が一番主張したいことを再度強調して読者に提示することができるので、その「小論文」でなにを主張したかったのか読者と自分自身にはっきりと印象づけることができます。

「まとめ」は特に新しいことを書く必要はありません。「判断」の再確認を「判断」とは別な表現で書いておけばよいでしょう。

また、ものごとに否定的な「判断」を下した場合は、最後に「提案」をする必要があります。

たとえば、「典型的な論文型小論文」の例でいえば、最終段落が「提案」になっています。この段落がなく、「文部科学省の方針は間違っている」とだけ主張したとしたら、内容的にあまりにも救いがありません。「じゃあ、どうしたらいいんだよ」と試験官に思われてしまいます。場合によっては試験官に「この受験生は主張だけして責任をとろうとしない人物である」と思われてしまう危険性もあります。

ですから、否定的な「判断」を下したら、できるだけ、代わりの考えを「提案」するようにしましょう。

以上が「絶対に口げんかで負けない方法」であり、かつ「説得力のある論文の書き方」でした。

それでは、次に「資料読みとり型」の論文型小論文の書き方を説明します。



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