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小論文お悩み相談室

美しい文章、流れるような文章を書くための4つのコツ【小論文お悩み相談室】

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先日、当講座のリライトサービスをご利用いただいた「ちゅうべえ」さんより、次のようなご質問をいただきました。

Q.流れるような、美しい文章の書き方を教えてください!

先日はリライトありがとうございました。自分の文章が見事に流れるような文になっていてびっくりしました。ところで質問ですが、どうしたら先生のような「流れるような」「美しい」文章を書けるようになるのでしょうか? なにかコツがあれば教えて下さい。(ちゅうべえ。会社員)

A.流れるような文章=「音楽」的な文章です。

まずはリライトをお褒めいただきありがとうございます。ご満足いただけたようでなによりです。

ただ、あらかじめ断っておきますが、後述するように、私自身は「美しい」文章を書こうと思って、文章を書くことはありません。

あくまでも「分かりやすい」文章を書こうと思って書いています。

その結果、「流れるような」そして「美しい」と感じられる文章になるのであれば、それはそれで良いというスタンスで以下に回答してみます。

さて、ご質問の「流れるような」文章の書き方のコツですが、これは一言で言うと、

「音楽のような文章を書こうとすること」

になると思われます。

音楽の三要素は、「リズム・メロディ・ハーモニー」

この三つの調和がとれた音楽が「美しい」音楽となるように、文章も、この三つが整うと「美しい」「流れるような」文章になるのです。

たとえば以下に、最近「流れるように」読ませることを意識して書いた、ある小論文の解答例を挙げてみます。

【問題:「対話」について思うところを書け】【解答例その1】

「対話」とは、じつは自分の輪郭を見いだすための孤独な作業である。

一般的に「対話」とは、二人の人間が「わかり合う」ために話し合うことだと思われている。そのイメージは「理解」「共感」「連帯感」である。

しかし、これはものごとの一面しか捉えていない。

たしかに「対話」によってこれら「幸せな結果」が得られることもあるだろう。けれども、本当に真剣な「対話」の先にあるのは、むしろ「孤独」「断絶」「絶望感」であることの方が多いのではなかろうか。

なぜなら、自分と同じ人間は一人としてこの世に存在することはなく、真剣な「対話」によってあぶり出されてくるのは、むしろ「あなたと私は違う」という事実であることの方が多いからだ。(後略)

まあ、上記の文章が「美しい」かどうかは議論の余地があると思うのですが(笑)、たとえば以下のような文章に比べれば、「流れて」いると思います。

 

【解答例その2】

「対話」というは、本当は自分の輪郭というものを見いだそうとするための孤独な作業ではないでしょうか。

一般的に「対話」というものは、二人の人間が「わかり合う」ために話し合うことであると思われており、そこから感じ取れるイメージは「連帯感」や「理解」や「共感」ではないでしょうか。(後略)

 

じつは、【解答例その2】は、【解答例その1】を、「崩して」作った文章なのですが、その作業の過程で、【その1】のどのような要素が文章を「流れ」させているかが明らかになりました。

それは以下の4つです。

文章を「流れる」ようにする4つの要素

1,短文の積み重ねでリズムを生み出す

【解答例その1】の文章は、短い文の積み重ねで書かれています。その結果、いわば軽快な「ビート感」が生まれました。

一方、【解答例その2】の文は、特に第2文が長く、一文多義になって「だらだら」した感じになっています。

やはり論路的な文章は、明確で歯切れよく、すらすら「流れて」頭に入ってくる文章でなければなりません。

音楽で言えば、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」のような、明快で軽快なリズム感を一文一義の短文の積み重ねで生み出しましょう。

2,七五調のメロディーで相手の心に入り込む

これは、自分で分析してみてびっくりしたのですが、【解答例その1】の冒頭文は、見事に五七五七七の「短歌」になっていました(笑)

「対話」とは(5)/じつは自分の(7)/輪郭を(5)/見いだすための(7)/孤独な作業(7)/である。

七五調、あるいは五七調は、やはり日本人の感性に強く訴えかける、「最強のメロディー」です。

♪うみはひろいな おおきいな・・

♪夕やけこやけで ひがくれて・・・

♪あなた変わりはないですか。日ごと寒さがつのります・・・

♪卒業までの 半年で、答えを出すと言うけれど・・・

むりやり七五調にはめ込む必要はありませんが、同じ内容が伝えられて、もし可能であるならば、この「最強のメロディー」を使ってみるとよいでしょう。

3,対句表現でリズムとハーモニーを生み出す

文章にリズムを生み出すテクニックの定番は、「反復」と「対句」です。

今回の【解答例その1】では、対句的表現が意識的に使われていました。以下の部分です。

(「対話」の)イメージは「理解」「共感」「連帯感」である。
(中略)
けれども、本当に真剣な「対話」の先にあるのは、むしろ「孤独」「断絶」「絶望感」である(後略)。

「理解」「共感」「連帯感」
「孤独」「断絶」「絶望感」

どちらも「3拍」「4拍」「6拍」と拍数が揃っており、あたかも「8分の7」+「4分の3」拍子のようなリズムを生み出しています。

また、ローマ字で表現するとはっきり分かるのですが、

「rikai」「kyoukan」「rentaikan」
「kodoku」「danzetu」「zetsuboukan」

上段は「kyoukan」「rentaikan」と「kan」という語尾が統一されており、下段は「kodoku」「danzetu」と語尾の母音が同一です。そして上段の「rentaikan」と下段の「zetsuboukan」も「kan」という語尾で統一されています。

これら、「母音の呼応」が、一種のハーモニーを生み出し、そこに音楽的な響きをもたらしているのです。

4,多彩な母音配置でハーモニーを生み出す

先ほども述べましたが、母音の配列は、文章全体のハーモニーを支配します。

たとえば、【解答例その1】の各段落の冒頭文の母音を列挙してみます。

「対話」(taiwa)→「あ」
一般的(ippanteki)→「い」
しかし(shikasi)→「い」
たしかに(tasikani)→「あ」
なぜなら(nazenara)→「あ」

基本的に母音「あ」は開放的でリラックスした印象を、逆に母音「い」は、閉鎖的で緊張した印象を聞く人に与えます。

文章を読んでいただくと分かるのですが、母音「い」で始まる段落の内容は、後に打ち消される内容であり、後に打ち消されることが予想される書き方になっています。

つまり、この内容は後に否定されるよ、という「緊張」を母音「い」の音で感じさせ、その後、母音「あ」で始まる段落で「答え」を読者に与えて、緊張から解放しています。

また、文末の母音も見逃せません。

【解答例その1】の各文の文末2文字の母音は、以下のようになってています。

である。→「あう」
ている。→「いう」
である。→「あう」
いない。→「あい」
だろう。→「おう」
なかろうか。→「うあ」
からだ。→「ああ」

ごらんいただくとお分かりのように「あう」が2回出てきただけで、あとはバラバラです。

これが、【解答例その2】のように、文末をそろえてしまうと、とたんに単調でつまらないものになってしまいます。

文末に多様性を持たせ、母音の配列を工夫することで、文章に豊かなハーモニーをもたらしましょう。

「美しさ」と「厳密さ」のトレードオフ

さて、以上が今回私が「流れるように」読ませたいと考えたときに使ったテクニックですが、ここで注意してもらいたい点が二つあります。

一つは、論理的な文章を書くときには、ここで挙げたような「流れやすさ」や「美しさ」を意図的に排除する必要がある時もあると言うことです。

たとえば、美しさや流れを最優先するならば、同じ単語を何度も繰り返すのは良いことではありません。

しかし論理的な文章を目指すのであれば、「同一概念は同一単語で表現する」必要があります。

少々流れが滞っても、同じ単語を繰り返す必要もあるのです。

また、「美しい」文章には文を意識的に長くして、うねるような迫力を醸し出す文章があるのですが(井上光晴や中上健次、『五重塔』の幸田露伴など)、これも簡潔明瞭な「一文一義の短文の積み重ね」を旨とする論文の文章とは相容れません。

「美しい」と「分かりやすい」は、同義ではありません。時には「あちらを立てればこちらが立たず」というトレードオフの関係になることもあります。この点はぜひ覚えておいてください。

「分かる」と「できる」は違うもの

そしてもう一つ気をつけるべきことは、これらのテクニックを「知った」としても、そうそう「使えるようにはならない」ということです。

解説というのはつねに「後付け」です。

作った後に分析した結果、見えてきた特徴に過ぎません。上記の各ポイントの説明も同様です。

実際に「流れるような」「美しい」文章を書けるようになるには、「流れるような」「美しい」文章を、大量に「読み」「書き」する必要があります。

詩集を口ずさみ、小説もぜひ、読んでください。

論文の文章に役立てたいなら、志賀直哉や初期の司馬遼太郎がおすすめです(センテンスが比較的短く、明瞭です)

また、独断で評論家をおすすめするとすれば、やはり立花隆と大前研一郎がよいでしょう。主張の内容はともかく、論理的、かつ明快に物事を論ずる文章力は別格です。

そして、「書く」訓練ですが、これはやはり「視写」が一番、パワフルです。

自分が身につけたい「音楽」を奏でている文章家の文章を、原稿用紙に「視」ながら「写」しましょう。

そして、書き上げたらぜひ音読で読み上げて、その文章が奏でる「音楽」を耳で味わってください。

これを繰り返すことで、だんだんと自分自身の文章も音楽が「流れるように」「美しく」なっていくでしょう。

とはいえすぐに出来ることは・・・

ただ、そんなのんきなことは言っていられない、という人もいらっしゃるでしょう。

そういう人は、まずは書き上げた文章を、音読するところから始めてください。

すらすら音読できるということは、その文章が「流れている」証拠です。

声を出して何度も読み返し、文章に修正を加えつづけることで、確実にあなたの文章は「流れる」ようになります。

流れるようにすらすら読める文章を書こうとするなら、まずは書いた文章の音読から始めてみましょう。

 


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石井秀明

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