もやもや表現の添削屋、石井秀明のブログです。

添削屋日乗

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あなたの言葉はなぜ伝わらないのか?

投稿日:2014年2月6日 更新日:

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(この記事は約4000文字。読むのに5~10分ほどかかります)

この世に「誤解」は存在しない。

「あいつ、ホント話が通じねぇなぁ」

「どうして誤解されたのかしら?」

「これ分からないなんて読解力なさすぎだろWWWW」

今日もあちこちで相手に言葉が通じなくて「イラっ!」ときている人が大勢いるようですね。

ご苦労様です(笑)。

しかし、ちょっと待ってください。

相手は本当に「誤解」しているのでしょうか?

言葉が「通じない」のは相手が悪いのでしょうか?

ここで極論を言っておきます。

この世に「誤解」はありません。

相手は単にあなたの言葉を「理解」しているだけです。

つまり、相手に自分の言葉が伝わっていないな、と思ったら、それは「100%あなたの責任」なのです。

もちろん、そうは思えないひどい状況もあるにはあります(笑)。

しかし、それでもそう思っていた方が「生産的である」と私自身は思っています。

なぜ、そう思うのか?

それを説明するために、まず相手に言葉が「伝わる」とはどういうことか? という話から始めましょう。

あなたの言葉が「伝わる」3つのステップ

言葉はモノではありません。

手に持った鉛筆を「はいっ」ととなりの人に渡すように「伝える」ことはできないのです。

以下の図をご覧ください。

「伝わる」概念図

あなたの「伝えたいこと」を言葉で相手に届けるためには、以下の3つのステップを踏まなければなりません。

1,圧縮

まずあなたは、自分が「伝えたいこと」を、言葉の形に「圧縮」しなければなりません。

たとえば、「昨日参加した同窓会が楽しかった」という「伝えたいこと」があったとします。

当日の会場の様子。参加した懐かしいメンバー。どんな料理が出てそれらがどんな味だったか。だれとどんな話をし、どんな話題で盛り上がったのか。etc・・・

それらすべての「楽しかったこと」を、言葉で表現し尽くすことは不可能でしょう。

だれかにその楽しさを伝えたいのなら、それらすべての経験から「語るべきこと」を取捨選択して言葉にし、相手に伝わるように順序立てて話したり、書いたりしなくてはなりません。

これが「伝えたいこと」の言葉への「圧縮」です。

そしてこの「圧縮」の作業を行うのが、あなたの中にある「知識・経験のフィルター」です。

人は、今まで蓄積してきた知識や経験に則って、「これなら相手に伝わるだろう」という言葉を選び、自分の「伝えたいこと」を言葉に「圧縮」します。

この「知識・経験のフィルター」を通すことで、初めてあなたの「伝えたいこと」は、言葉になるのです。

2,伝達

1,で述べたとおり、あなたが「伝えたいこと」は、あなたの「知識・経験のフィルター」を通過することで言葉の形に「圧縮」されます。

そして言葉として「圧縮」された「伝えたいこと」は、そこで初めて「伝達」可能になるのです。

言葉の「伝達」ルートは、主に二つ。

それは、「音声伝達」と「文字伝達」です。

簡単に言うと話して伝えるか、文章にして読ませるかということです(笑)

言葉は声になるか、文字になるかして相手に伝わっていきます。

(この「話し言葉」と「書き言葉」の違いも伝わり方に大きな違いをもたらすのですが、今回は割愛します。)

3,解凍

こうして無事に相手に「伝達」されたあなたの言葉ですが、それであなたの「伝えたいこと」がすぐに伝わるわけではありません。

あなたの言葉は、受け手側である相手の「知識・経験のフィルター」を通して「解凍」されることで、初めて相手に伝わるのです。

先ほども述べたとおり、言葉は「伝えたいこと」から抽出され、取捨選択されて人工的に並び替えられたものです。

つまり言葉というものは、「伝えたいこと」全体に比べたら中抜きされてかろうじて輪郭が見えるだけになった「干物」のようなもので、「もとの姿」を知るためには、受け手側が欠けた部分を補って「復元」しなければならないのです。

そして、この「復元」作業を行うのが、相手が持っている「知識・経験のフィルター」です。

あなたの言葉を受け取った相手は、「このような状況で、こんな感じの言葉が発せられたのなら、その背後にある『伝えたいこと』はきっとこんな感じだろう。」といった思考で、あなたの言葉を自分の「知識・経験のフィルター」に照らし合わせて「解釈」「補足」しながら、あなたの「伝えたいこと」を理解していきます。

あなたの「伝えたいこと」は、こうして相手の中に「解凍」されることで、やっと「伝わったこと」になるのです。

あなたの言葉が通じない5つの理由

さあ、以上が言葉が「伝わる」過程です。

ふだん何気なく交わしている言葉ですが、言葉によって「伝えたいこと」をやりとりするというのは、こんな複雑な過程なんですね。

そして、これらの過程が滞りなく進めば、「伝わらない!」とあなたがイラつくこともありません。

つまり、適切に「伝えたいこと」が「圧縮」されて言葉となり、それが欠けることなく「伝達」されて、相手によって適切に「解凍」されれば、なんの問題も発生しないわけです。

しかし、実際はなかなかそうはいきません(笑)。

その原因は、以下の5つにまとめることができます。

1,相手が自分と違うフィルターを持っていることが想像できない

まず、致命的なのがこれです。

自分と相手が違う「知識・経験のフィルター」を持っていること、つまり自分と相手は違う人間であるということが分かっていないと、言葉はほとんど伝わりません。

こういう人は、自分の「伝えたいこと」が伝わらない可能性があるということすら想像できませんので、つねに言葉が伝わらないことに対してイライラしています。

ま、母親と一体化した赤ちゃんと一緒ですね(笑)

2,自分と相手が共有している情報量の目測を誤っている

「言葉足らずでよく分からない」「話がくどくて聴く気が失せる」のは、だいたいこのパターンです。

基本的に相手と共有する情報が多ければ多いほど、伝えるのに必要な言葉は少なくなります。

逆に共有する情報が少なければ少ないほど必要とされる言葉は増えていくもの。

長年連れ添った夫婦であれば、「おい、あれ。」だけで伝わるかもしれませんが、関係の浅い人にそれをやっても伝わりません。

逆に、分かっている相手にくどくど説明しても本当に伝えたいことが伝わらなくなってしまいます。なにごとにも「適量」というものがあるのです。

3,自分と相手の経験内容の違いが想像できない

「専門用語が多すぎて分からない」「使っている比喩がピンとこない」

こういう伝わらなさは、これが原因です。

自分がパソコンに詳しいからといって相手も詳しいとは限りません。

音楽好きには通じる比喩も、野球好きには通じないでしょう。

また、とかく上司の昔話は若手にはピンとこないものです(笑)。

言葉で何かを伝えたければ、相手がどのような経験をしてきた人なのかを考えなければないのです。

4,知っている言葉が少ない

そもそも、使える言葉の数が少なければ、ものごとを的確に言葉にすることはできません。

また、相手が使う言葉を知らなければ、理解できないのは当然です。

5,適切な言葉が選べない。うまく言葉が並べられない

言葉は知っていてもそれを的確に選べない。仮に選べたとしても効果的に伝わる順番で並べることができない、という人も多いようです。

ただ、この症状は訓練で比較的短期間で改善できます。

書き言葉であれば小論文を学びましょう。特にうちの講座であれば、短期間に改善することができるはずです(笑)

いかがでしょう?

以上があなたの言葉が「伝わらない」5つの理由です。

え?

「これじゃあ、自分に厳しすぎる。相手の『知識・経験のフィルター』がお粗末だったり、解釈が下手くそだから伝わらないこともあるんじゃないのか」

ですか?

はい、たしかにそういう可能性もあります。また実際にそうであることも多いでしょう。

でも、「それを言っちゃあ、おしめいよ。」なのです。

この世の中で自分で完全にコントロールできるのは、自分の言葉と行動だけです。相手が変わるのを願うだけではなにも変わらない。

相手の「知識・経験のフィルター」がお粗末なら、それに合わせてこちらの言葉の使い方を変えれば良いのです。

情報量にギャップがありすぎるのであれば、適切な「解凍」に必要な情報をまず与え、伝わらない言葉があれば、伝わる言葉が見つかるまで、別な言葉を探しましょう。

そのような試行錯誤を続けた先にしか「伝わる」確率のアップはありません。

最初に「言葉が伝わらないのは100%自分の責任」と思うことが「生産的」であるといったのは、こういう意味なのです。

絶望の先にある光

さて、最後にもう一つだけ。

すでに勘の良い読者ならもう気づいていらっしゃると思います。

「自分とまったく同じ『知識・経験のフィルター』を持っている人なんてこの世に存在しないでしょ? それって人間どうしが言葉で100%理解し合うってことはないってこと?」

はい、その通りです。

人間が言葉で100%理解し合うことは絶対にありません。

あなたと私が別人である限り、「伝えたいこと」と「伝わったこと」の間には必ず「ズレ」が発生し、100%分かりあうことはないのです。

悲しい事実ですね。

でも、そこを受け容れるからこそ、逆に希望が生まれてくるのです。

「伝わらない」と感じても、相手に対して怒る必要はありません。

前述の「伝わらない5つの理由」を思い出し、自分の言葉の使い方のどこに問題があるのかを冷静に分析しましょう。そしてお互いが満足するまで伝えようと努力すればよいのです。

また、相手との間にちょっとした理解の「ズレ」を感じた場合も、許容範囲であれば「ま、このくらい伝わればよし」と静かに笑って一緒に前に進みましょう。それだけ伝わったということは素晴らしいことなのですから。

人間の悲喜劇は、言葉を獲得した瞬間から始まりました。

それらの多くは言葉を信用しすぎたり、軽視しすぎたことの結果です。

言葉が伝わる仕組みを理解し、言葉と適切な距離をとること。

それが言葉を使って他人と「なんとかうまくやっていく」一番の方法なのです。


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